精進料理
精進料理のお寺
心をこめて やすらぎの時間を ―寺娘のおもてなし―
滋賀県米原市の青岸寺では、国の名勝である庭を愛でながら精進料理を堪能することができる。「食彩処六堪庵」としてこの取り組みをスタートして1年。口コミによって多くの人が訪れ、リピーターも多いという。ここをきりもりするのがお寺の娘さんの永島慧明さんだ。
緑が美しい枯山水
しっとりと雨にぬれる苔の緑。山の斜面に巧みに配置された自然石が素朴ながらもみごとな景観を生みだしている。ここの枯山水の庭は、水を表す砂の代わりに苔が用いられているのが特徴だ。永平寺の64代目住職である森田悟由禅師ゆかりの書院「六堪庵」から望む風光は趣き深い。
自らが進むべき道
大学4回生の時、同級生が就職活動に奔走する中、自らはお寺のためにできることに専念しようと決心した。お寺で生まれ育った永島慧明さんには、「お寺や庭を知ってもらえるきっかけをつくりたい。ふるさと米原の活性化にも貢献したい」という思いがあった。
「お寺に就職したんです」と笑顔で話す慧明さんだが、はじめは『ほんとうにこれで良かったのか』と自問自答することもあったという。「すべてが初めてのこと。生活のリズムも変わり体力的にもきつかった」と当時の様子を懐かしそうに話す。近頃、ようやく心の余裕も生まれてきた。
手間をおしまない料理が心に響く
すべて手作りされる精進料理は、季節の野菜を使ったオリジナルメニューだ。当初は2品程度だったが、試行錯誤を重ねて現在の形にたどりついたという。
「お寺の食事ですから心をこめて一生懸命。そうすることで何か伝わればうれしい」
母、慧子さんとアイデアを出し合い、一緒に作る料理には、女性ならではの優しさと繊細さがあふれる。
黒塗りの器に盛りつけられた、滋味あふれる料理の数々。「なるべく旬のものを使うようにしています」というように、季節によってメニューが変わる。リピーターが多いというのも頷ける。
親子で息の合った準備を進める。
未来につなぐために自分にできること
庭園の維持には、年に数回の職人による手入れが必要だが、数年前から県の文化財予算がストップし、これまで同様の管理が難しくなったという。
そんな中、庭園の将来を危惧する多くの人たちの働きにより、休止中だった「青岸寺庭園保存会」が復活した。六堪庵の収益もその活動のために使う。
「このお寺や庭は私だけで守れるものでもない。私たちは長い歴史の中の一点にしかすぎないけれど、ここが途切れてしまうと未来につながらないと思うんです」。お寺で暮らす慧明さんだからこそ、先人達がつないできたその重みを誰よりも感じるのだろう。
「一人では何もできません。両親やお檀家さん、そしてお寺を愛する人々の支えがあってはじめてできること。そういう人がいるから自分も頑張れる」。お寺で生まれたご縁を大切にし、多くの人に感謝する慧明さん。前向きに頑張るその姿は凛と輝いていた。
『食彩処六堪庵』
- 所在地
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〒521-0012
滋賀県米原市米原669青岸寺内 - 交通
- JR「米原駅」東口より徒歩10分
- TEL
- 0749-52-0463
- ホームページ
- http://www.seiganji.org/
- 料金
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1名:2,500円(拝観料込)
※2日前までのご予約制
- ご利用人数
- 2名様〜18名様
- ご利用時間
- 11:30~15:00
- 休業日
- 毎週火曜日・不定休
- 取材日の食事内容
- 湯葉巻き野菜のつけ麺・湯葉粥・自家製胡麻豆腐・大根の精進蒸し・手作りがんも・よもぎ麩の煮つけ(蕨とふきをそえて)・ちょうじ麩のからし酢味噌和え・自家製わらびもち