過去の法話

良寛さんの涙

兵庫県 最明寺住職 大槻覚心 老師

不登校の学生の増加、いじめの問題、家庭や学校での暴力問題。
また親による子供に対する虐待など、いわゆる教育問題が新聞やテレビで報道されています。
教育の問題では親と子のありかたがとりわけ問題だと思います。

江戸時代の末に良寛さんという僧が越後の五合庵という庵にすんでおられました。子供とも一緒に遊び、みなにとても慕われていました。
良寛さんに由之という弟がありその子に馬之助という放蕩者の息子がありました。あるとき由之が息子の放蕩に困り、良寛さんに説教を依頼しました。良寛さんはその依頼を受けて、久しぶりに故郷の由之の家に滞在されていました。

しかし、二日たっても三日たっても良寛さんは馬之助に対して説教もされませんし意見も言われません。三日目の朝には家の人が止めるにもかかわらず「わしはもう帰る」といわれます。

そのとき、由之の妻は馬之助に良寛さんの草鞋の紐を結んであげるようにいいつけました。馬之助は言われるままに草鞋の紐を結び始めました。そのときも良寛さんは一言も言われません。が、馬之助は不意に顔を上げました。自分の首に何か熱いものが落ちてくるのを感じたからです。馬之助が見上げると、そこには、目にいっぱい涙をためた良寛さんの悲哀のこもった顔がありました。

良寛さんはそのまま五合庵に帰っていかれました。が、馬之助の放蕩はその日を境にすっかりおさまりました。おそらく説教されるか叱られるかのどちらかに違いないと思っていた馬之助には、良寛さ涙は不可解だったに違いありません。しかし、馬之助には良寛さんの悲哀のこもった顔と涙が心に深く刻まれたのだと思います。そして、自分のことを本当に思っていてくれているのに、期待に背いてばかりいる自分に対する反省の思いが起こったのでしょう。

私たちは、様々な問題を抱えた子供たちをすぐに非難したり、説教したりしがちです。しかし、それよりも、子供と一緒に悩んだり苦しんだりしながら、その中で子供と一緒に解決策を探っていくことが、今、何よりも必要だということを私は良寛さんの逸話から学びました。

2002/11/26