禅〜凛と生きる〜|曹洞宗近畿管区教化センター

禅のお話

講演録

今ここを生きる ~坐禅~(坐禅入門)禅話・坐禅指導

曹洞宗近畿管区教化センター統監・幤 道紀(神戸市 妙香寺 住職)
仏性を行じる

先ほど清水寺の森清範 猊下が楽しいお話をなさいました。
その中で、「理仏性(りぶっしょう)」と「行仏性(ぎょうぶっしょう)」というお話がありました。

仏性を禅的に表現いたしますと、「本来の自己」と申します。「本来の私」ということですね。本当の
私とは何か、そういう話をしだすといくら時間があっても足りませんので省略しますけれども、今日は皆さんご自身で仏性を行じていただきます。その行ずる根本は何かというと、坐禅でございます。

森猊下の清水寺さんは北法相宗で、奈良の興福寺、薬師寺さんも同じく法相宗に属していますし、法隆寺さんもかつては法相宗でした。法相宗で説かれる仏性と禅で説く仏性には異なるところがあります。

先ほど申しましたように、本当の自己のことを、禅では仏性、仏性のことを本来の自己という、そういうことです。

ここにある「いのち」の世界

本来の自己とはどこにあるかというと、いつもここにあります。過去はすでに過ぎ去って現前していません。記憶の中にしかありません。未来はいまだきておりません。いま、ここにある「いのち」の世界の実相を道元禅師は仏性とおっっしゃっています。「いのち」の世界は無量であり、また無限定ですので、視点を変えれば無量の説き方が可能です。

たとえば、『般若心経』のなかに「無所得」という言葉があります。普通、私どもは所得が多ければ多いほど、社会的に生きていく上では、望ましく、願わしいことで、大事なことです。所得とは得るものがあるということですね。私たちは常に何か、何事かを求め続けてやまない。理想、願い、目的、目標などを定め、それらの実現をめざして精進努力することが願わしく価値ある生き方だということが普通の社会生活の基本ですけれど、その願わしい生き方、何事かを求めてやまない、わたしたちのその求める心の奥底に常に自我があって、自己中心的な求め方をしている、と仏教では見ます。社会生活では望ましいことではありますが、仏教においてはそれは理法に外れた生き方である、と見るのです。

無所得というのは、求めないということです。求めることが常に成就するかといえば必ずしも報われるわけではありません。求めることによって葛藤が生じることが多いと思います。願うことが叶わない。そのことで挫折したり、自分の殻に閉じこもったり、社会からスポイルされたりして、時には心を病むことになったりします。そういう求め続ける生き方に対して、仏教は求めない生き方を推奨します。時にはそういう生き方を体験して頂きたいのです。

満ち足りている「いのち」

もともと、私たちのいのちは常に満ち足りているんです。満ちてはいるのですが、自分が満ち足りていないと思いこんでいるのです。

この世に生まれ、年をとり、病にかかり、やがては死を迎える。また、求めることが叶わない、愛する人と別離せざるをえない、憎み合うひとと合わざるをえない、心身の生長にともなうさまざまな苦、これらは四苦八苦といわれるものですが、苦悩、苦痛も含みますが、「自分の思い通りにならない」ことを仏教では「苦」といいます。苦は求めることによって生じるということです。

坐禅は求めない行です。ただひたすらに「いま、ここに」充足する行い。これを只管打坐といいます。

私が大学時代に、坐禅の指導をして下さった高名な禅僧がおられます。今でも本屋さんにいきますとその方の本が出版されております。澤木興道という方です。私は大学1年生の時から坐禅会の時にご指導いただきましたが、澤木老師に「坐禅をしても何にもならない」という言葉があります。ただ、この何にもならないことをすることが最も尊いことなんです。

何かのためにすると、必ずどこかに軋轢が生じます。施しをしても、施した側がそのことを常に施したと思っていますと、施した相手が負担になるでしょうし、己も施した、施したという思いが、その施したという当人の心を束縛することがあるんです。だから人にものをあげる時はあげっぱなしにする。そういうことが本当は仏道の修行の根本なんです。求めない、見返りを求めない。そのことが心を自由にするのですね。

椅子坐禅の仕方

ただいまから、その行仏性、つまり本来の自己を行ずる坐禅についてご説明いたします。

今日は椅子席のみですから、椅子坐禅の行法をお話します。最初にまず、姿勢をととのえます。腰とか背中に支障のない方は、背もたれから背を離してください。

そして最初に、手のひらを上にして腿(もも)の上に広げておいてください。右に大きく揺すりましょう。左に揺すりましょう。こうやって左右に揺すりながら骨や筋の調えをするわけです。

何度かします。だんだんと揺する幅を小さくしていきます。

これを「左右揺振(さゆうようしん)」と申します。

脚の開き方

次に脚ですが、幅はご自由で結構です。それから、かかとはなるべく90度よりも内側(後ろ)におさめてください。かかとを前に出すと、腰に負担が生じますので、長時間坐っていると腰が痛くなります。少しかかとを90度よりも内側に引いてください。

左右揺振が終わりましたら、右の掌を下にして、左の掌を上にのせます。そして両方の親指を軽くふれる程度にして水平に保ちます。その手を、自分の身体の足のつけ根におさめます。これを「法界定印(ほっかいじょういん)といいます。坐禅中はその形をくずさぬよう保ち続けます。

我々の坐禅は仏行といいます。仏行(ぶつぎょう)とは、仏の行のこと。凡夫(ぼんぶ)の行ではないということです。坐禅をするということは、すなわち仏になること。生き仏に。仏というのは目覚めた人ということです。本当に目覚めた人。

法界定印

心が怠けたり、眠くなると、親指がたらーんと下がってくる。それを見るだけで、眠っているか、心が集中していないっていうことがとわかります。

親指がそると、緊張している。力が入っている。これが、つかず離れずで、終始手指の形を保つ。法界定印。大日如来の手のありようなんですよ。皆さん、仏さんなんですよ。

三調~調身・調息・調心~

坐禅の行法で大切なことが三つあります。第一は調身で姿勢を整える。第二は調息で、呼吸を整え、第三は調心で、心を整えます。

まず、調身から始めます。腰を伸ばしてください。すーとこう背筋を伸ばしてください。顎をすこしひきます。これから深呼吸いたします。

鼻から吸って、口から吐きます。

鼻から吸った空気をずーと下腹部まで吸い込むつもりで、ゆったりと吸い込んで、下腹部からゆったりと口をすぼめながら吐いてみてください。

吸った空気を口をすぼめながらゆっくりと長く吐いてみてください。長く吐けるはずです。

鼻から吐くよりも口から吐く方が、力強く長く吐けます。

これを「欠気一息(かんきいっそく)」といいます。鼻から吸った息を口からゆっくりと長く吐く。これが坐禅に入る前の一種の深呼吸です。この、欠気一息を何度か回数を重ねてください。

欠気一息が終わりましたら、いよいよ坐禅に入ります。もういちど、姿勢を点検しましょう。

背筋を伸ばして顎をすこし引きます。

坐禅中の呼吸と目線や意識のむけかた

坐禅中の呼吸は、鼻のみで行います。鼻で吸って、鼻から吐く。口は閉じますから、唇を閉じて、唇歯相つけて、歯をを閉じると、おのずから舌は上あごの歯の付け根に収まります。

目は、必ず開きますが、かっと見開くのではなくて、視線をおよそ45度のところに落とします。

人間には五感と言いまして、眼耳鼻舌身、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚等の身体感覚、などが具わっていて、いろいろな情報が入ってきます。眼に映る対象、耳に入ってくる様々な音、あるいは皮膚に感じるいろいろなこと、そういったことに捉われないということが大切です。

注意を向けない。耳に入ってくる音声は聞き流す。

姿勢が調いましたら、今度は調息です。日ごろ、私たちは胸郭を中心とした浅い呼吸をしていますが、赤ちゃんはすべて腹式呼吸をしています。腹式(丹田)呼吸は肺機能を充分に活動せしめる望ましい呼吸法です。鼻から吸って、吐く息を大事にしてください。

これは自律神経と関わりのあることなんですが、吐く息は、自律神経の中でも調整する役目を分担している副交感神経に関わるとされています。これをしていますと気持ちが弱くなりませんから。吐く息を大切にしてください。長ければよい、ということではなく、自分に合った、ゆったりとした腹式呼吸を続けるということです。

心を調えるとは

最後に心をととのえる、調心。

私たちは、心を調えようと思っても決して調えられません。調えようと思う心をととのえなえればいけない。そうすると、調えようと思う心を調えようとすると、その心をまた調えようする心が必要になってきます。そうするといつまでたっても調えられないのですよ。論理的にもそうですし、事実そうです。調えられません。

どうするか。

じっとしていると必ず雑念がわいてきます。生きている限り。普段はそれを追いかけて喜んだり楽しんだり自己満足したり、雑念を追いかけているんですよ。それをやめましょうと。念を放つ、といいます。

雑念は、知らず知らずのうちに湧いてくるわけです。

姿勢をととのえて、呼吸をととのえて、心は追い求めない。湧いてきた念が、念は必ず湧いてきますが、それをさらに回転させていかない。回転させると自転車操業になりますから。

念を放つということは、放りっぱなしにするという事。

今から、わずかな時間ですが、坐禅をいたします。

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