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一輪なれど暖かし

京都府 神応寺住職 安達瑞光 老師

 

  命を揺さぶるような衝撃の体験をしますと、頭での記憶は年月とともに薄らいでいきますが、その体験は身にしみついて、消えることはありません。
  深い心の傷、躰が覚えた経験は、その後の生き方、考え方に影響していくそうです。

  人間の最大の悲しみは、離別です、とりわけ死に別れです。身近な人、夫婦や、親子との死に別れは、この上もない悲しみに打ちひしがれます。けれども、その深い悲しみの体験により、命あること、生きていることの喜び幸せが、よくわかるようになります、躰が覚えた経験が、やさしさの心を育むからでしょうか。

  今年も、香り高き梅の花が咲く時節になりました。梅は夏に伸びた若枝「すわえ」に、翌春には蕾
をあまりつけません、冬の寒風に吹かれ、そして夏の灼熱を超えて成長して、翌々年の春になって、その枝も太くなり、多くの花を咲かせます。
  寒風、灼熱に耐えて咲く梅の花は美しい、あたかも人が艱難辛苦をのりこえて生きて、はじめて真の喜びを知るが如くです。
  しかも、梅は、己が力だけで咲いているのではない、天地自然のさまざまなご縁のもとに、自然が総掛かりで美しい花を咲かせるから、梅一輪にも、暖かさが感じられるのかもしれません。

  深い悲しみや、耐え難い苦しみに耐えてこそ、命ある、生きているこの上もない喜び、幸せを、深く味わい知ることができるようになる、そういうことかもしれません。


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